小笠原海域
小笠原諸島は、東京の南約1,000kmに位置しています。北から聟島列島、父島列島、母島列島、火山列島の4つの列島を中心に、孤立した南鳥島、沖の鳥島、西之島の3つの島を加え、大小合わせて約30の島々が南北約1,000km、東西役1,800kmに広がっています。これらの島々は、火山活動によって海上に隆起したとされており、ほとんどの島の周りは急な傾斜で囲まれています。しかし急に深くはなるものの、島周辺部ではザトウクジラが好むといわれる水深200m以浅の海が広がっています。海洋センターがクジラを探した範囲も、それぞれ4つの列島と西之島の沿岸で、海岸線から約10km以内の水深200m以浅に集中していました。このうち西之島を除く4列島で、ザトウクジラの定期的な来遊を確認しており、小笠原諸島内での北限は聟島列島の北の島、南限は火山列島の南硫黄島と考えられます。

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小笠原⇔沖縄の移動
小笠原では、1987年から1994年の8シーズンに1,638枚の写真を同定し、490頭の個体を識別しました。沖縄では、1989年から1994年の6シーズンに240枚の写真を同定し、89頭を識別しました。そして両海域間でマッチングを行なったところ、同じクジラが28頭見つかりました。これは小笠原で識別されているクジラの6%が沖縄でも識別されており、沖縄で識別されている31%のクジラが小笠原でも識別されているということです。これら28頭の内、22頭の記録は夏の餌場を挟んだ異なるシーズンの出現でしたが、残り6頭は同じシーズン中に直接沖縄から小笠原へ移動しています。メキシコ、ハワイ、日本(小笠原・沖縄)の3つの3つの主な繁殖場間での移動は、数千枚のID写真を比べた中でも数えるほどで(他海域との関係-繁殖場・餌場の章参照)、これに比べると小笠原-沖縄間の交流の頻度はたいへん高いです。このことから、この海域に来遊するクジラは西部北太平洋の1つのまとまったグループといえます。

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西部北太平洋繁殖海域
捕鯨時代に得られた記録によると、西部北太平洋の繁殖海域におけるザトウクジラの分布範囲は、小笠原諸島、マリアナ諸島、マ-シャル諸島、沖縄諸島、台湾、海南島とされています。しかし、これらの海域の中で近年のザトウクジラの定期的な来遊が調査により確認されているのは、小笠原と沖縄のみです。1990年には、ジム・ダーリング博士が台湾とサイパンでザトウクジラの生息について聞き取り調査を行ない、それら海域へのザトウクジラの定期的な来遊はないものしています。マリアナ海域における、近年のザトウクジラに関する情報としては、1991年2月に、グアム島(マリアナ諸島)のアルパンコーブで1群3頭のザトウクジラが観察され、背ビレの写真が撮影されています。小笠原海洋センターでは、1994年11月にサイパンで聞き取り調査を行ない、1995年3月~4月、1996年1~2月に、米国国立水産局と北マリアナ連邦共和国の調査許可のもと、マリアナ諸島全域で目視調査を行ないました。聞き取り調査では、サイパン島、ロタ島、グアム島および北マリアナ諸島周辺で親子クジラを含む数件の目撃例が記録されていることがわかった他、ソングも聞かれたという情報を得ました。また、ここ数年、台湾でザトウクジラが観察されたり、フィリピンでもザトウクジラの定期的な回遊と、小笠原や沖縄のクジラと同じことが確認されており、西部北太平洋繁殖海域のザトウクジラの回遊の南限は、現時点ではフィリピン北部と考えられます。

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