過去の調査写真を見返しているとこんな写真が、、、。
左は調査船まで接近したミナミバンドウイルカの群れ。
右は船首波に乗るハシナガイルカたち。
水中を縦横無尽に駆け泳ぐ、遊び好きのイルカたちの姿はとても愛らしく、クジラやウミガメのどっしり構えた感じとはまた違った魅力がありますね。
そんな可愛らしいイルカたちですが、実は「骨」を観察すると、非常に面白い造りをしていることがわかります。
なにしろ、陸から海へと進出したわけですから、色々と体の構造を変える必要があったわけです。
今回は彼らの骨のちょっと変わった一面(というより内面?)のお話です。
/ドンッッッ!!!\
こちらは小笠原海洋センターに展示されている、ハシナガイルカ の骨格標本。
1991年の大みそかに父島の扇浦海岸に漂着しているところを発見されました。
漂着とは鯨類が死んだ状態で浜辺に打ちあがってしまうこと。
水産庁が2012年に設置した「鯨類座礁対応マニュアル」では、以下のように定められています。
座礁 ・・・ 生きたまま海岸又は潮間帯に乗り上げた状況
漂着 ・・・ 死亡した状態で海岸又は潮間帯にたどり着いた状況
ちなみに座礁や漂着のことを英語で「ストランディング/stranding」といいます。しかし、IWC(国際捕鯨員会。2019年に日本が正式脱退をしたのは記憶に新しい。)の「ストランディング」ページなどの海外サイトを一見すると、「漂着」と「座礁」のような言葉の使い分けはされていません。厳密にいうと、”live stranding” や “dead stranding” という言い訳をしますが、一つの単語を打ちあがった生物の状況で使い分けるということは我が国がいかに鯨類と真摯に向き合ってきたかを示しているのではないでしょうか。
話が少し逸れてしまいました。今日私がお見せしたいのはそう、そんなイルカの本当の「素顔」です。
見てくださいこのお顔 Σ(゜ロ゜;)!!
最初に見たとき、「なんだこれ、、、、!?」と感想を抱いたのを今でも鮮明に覚えております。
他の動物では膨らみがあるはずの口先から頭頂にかけての部分が、大きくえぐれたように凹んでいます。
人類を魅了して止まないあの可愛らしいお顔の下がこんなプレデターだとは誰が想像したでしょうか?
ちなみに私は以前、イルカの骨格標本の作成に携わったことがあります。実は鯨類の骨は穴だらけでスカスカ。その中に油がいっぱい詰まっています。
この油分が体温保持、エネルギーの貯蔵や浮力調整に一役買っているわけなのですが、、、(Wysokowski et al., 2020)。
脱脂の工程で油をきれいに抜かないと、滲んで骨が黄ばんでくるわけです!
しかし、この標本は30年経った今でも劣化があまり見られず、手慣れた方が作成されたのかなと思ったりしています。
それとも夏場もクーラーが効いている展示館で保存されているから状態が良いのかも。本当のところはわかりませんが、、、。
またまた話が逸れてしまいました。
イルカの頭骨がこんなにも凹んでいるのは、ここに「メロン」呼ばれる脂肪組織が詰まっているから。
この「メロン」がイルカのエコロケーション(簡単に言うと、音を発して跳ね返ってきた音で物体の距離や方向を知ること。)を可能にしています。
このように水中生活に適応するように進化したイルカの骨格は陸生哺乳類のそれとは大きく形が異なります。
骨盤が退化していたり、首の骨が癒合していたり、歯の形が上下のあごで全て同じだったり(このことを同形歯性という。人間の歯は犬歯や奥歯で形が違うので異形歯性だ。)、頭蓋骨が左右非対称だったり、、、、。
と、イルカの骨格の風変りな点を挙げるとキリがないですね。
とりあえず今回はこの辺にしまして、次回より数回に分けてイルカの骨の特異性について書こうと思います!
それでは次回もお楽しみに!
参考文献
Wysokowski, M., Zaslansky, P., & Ehrlich, H. (2020). Macrobiomineralogy: Insights and Enigmas in Giant Whale Bones and Perspectives for Bioinspired Materials Science. ACS Biomaterials Science & Engineering, 6(10), 5357–5367. https://doi.org/10.1021/acsbiomaterials.0c00364