みなさまこんにちは!
海洋センタースタッフのしみずです。

小笠原もすっかり寒くなり、島の主役は気付けばアオウミガメからザトウクジラに交代。クジラ人気は島内でも非常に高く、ウェザーステーションを始めとする展望台にはクジラ探しをする人の姿を多く見かけるようになりました。

ウェザーステーションからの夕陽。眼下にはザトウクジラが観察できます。

海洋センターは島内では「カメセンター」と呼ばれることが多いからか、意外と私たちが『ザトウクジラ調査』を行っていることは知られていないような気がします。今回はそんな調査についてお話します!

ややこしい歴史の話からスタートしてしまいますが、そもそも小笠原でのザトウクジラ調査は、1988年にカナダから2人の研究者が来島して始まりました。同時期に小笠原ホエールウォッチング協会(OWA)の設立、小笠原海洋センターでの調査が始まります。
2014年を最後に、資金不足、人手不足などにより、事業の規模を縮小して調査をせざるを得ない状況が数年続きました。
しかし、2017年~2019年は本格的ではないものの、年間数回のクジラ調査を実施していました。そして2020年から本格的な調査を再開しました。この再開にあたっては、企業からの助成金獲得により資金の問題を解決できたこと、そしてなにより、スタッフKさんが「このまま調査データが埋もれてしまうのはもったいない!これだけのデータを持っている海洋センターがやらなければ!」という熱意がありました。
2020年からは小笠原ホエールウォッチング協会(OWA)との協働で調査を実施しています。これまで小笠原で確認されたザトウクジラのデータベースがより充実し、調査研究がの幅が広がり、国内外との共同研究にもさらなる展開や成果が期待できるようになりました。

そんな『ザトウクジラ調査』は大きく2つの段階に分けることが出来ます。
①沖に出てクジラの尾びれ写真を撮る
②撮った写真から個体の識別を行う
今回はこの①についてお話していきます!

さて、「①沖に出てクジラの尾びれ写真を撮る」ですが、撮る箇所は「お腹側の尾びれ」です。
ザトウクジラは数回の息継ぎののち、頭を海底に向け、尾びれを高く上げて深く潜る『フルークアップ』という行動をします。フルークアップダイブと呼ぶこともあります。
フルーク(Fluke)とは尾びれのことなので、文字通り尾びれを高く上げることですね。国にとってはテイルアップと呼ぶそうです。
このフルークアップはザトウクジラだけでなく、小笠原の外洋で見られるマッコウクジラも行います。冬の時期は海が荒れることが多く、マッコウクジラのいる外洋まで行くことが難しいのですが、見比べてみると面白い発見があるかもしれませんね。

調査ではフルークアップの瞬間、クジラの背後につけた船上からカメラで尾びれを撮影します。そうするとお腹側の尾びれの写真を撮影することが出来ます。毎回しっかりと尾びれを上げるとも限らないうえに、いちど潜ると10~20分ほど潜っていることが多いので、少ないチャンスで確実に撮影することが調査では大切になってきます。

当然ですが、野生動物であるクジラが私たちの予想通りに行動してくれるわけではありません。クジラの位置や行動を予測しながらクジラの背後に回ることのできる、高い操船技術が求められます。さらに、揺れる船上で、しっかりとピントを合わせてシャッターを切るのは難しく、何度も経験を積むことが重要になってきます。陸上で撮影する場合には三脚などのカメラを安定させる道具が使えますが、常に揺れる船の上では使えないため、スタッフの体幹と技術(と根性)により、尾びれの写真を撮影しています。調査翌日のスタッフは、踏ん張る足や力の入りやすい肩付近の筋肉痛に悩まされるという噂も……

では、スタッフの汗と涙の結晶、一生懸命撮影した尾びれの写真を見てみましょう。

もちろん同じ「ザトウクジラ」という種類のクジラですが、尾びれにはそれぞれの個性があります。特にこのザトウクジラは尾びれの模様や、ふちのギザギザ(エッジ、と呼んでいます)に個性が現れやすく、尾びれを使った個体識別が世界中で行われています。
この個体識別を行うのが、先ほど書いた②の段階です。

長くなってしまいますので、②は次回のお楽しみに!

参考文献:「小笠原の捕鯨の歴史」三木誠