こんにちは!

最近、生物の進化にハマっている小笠原海洋センタースタッフのTSです。

前回のブログ「ウミガメの頭骨を眺める」では、ウミガメの特異的な頭骨の形状を掘り下げていきました。

今回は「」つながりということで、様々なウミガメの「」に注目していきたいと思います。

 


 

こちらは小笠原海洋センターで飼育されている3種類のウミガメたち。

大きなアゴが特徴的な なっちゃん ↓

 

小ぶりなお顔のコータくん ↓

 

クチバシがしゅっと細めのアズキちゃん ↓


ご覧ください。一口に「ウミガメ」といっても、顔の特徴は十亀十色です。

なぜ同じ「ウミガメ」でもここまで違いが生まれるのでしょうか?

 

「種の起源」で有名なイギリスの科学者チャールズ・ダーウィンは、著書The Voyage of the Beagle」でこう述べています

ガラパゴス諸島に生息する、お互いに非常に近縁なグループであるダーウィンフィンチ類のクチバシの形状の多様性を見ると、ある1種がここにきて、それが(食性に合わせて)様々な種に分岐していったであろう事実は非常に興味深い“Chapter17 ガラパゴス諸島” より意訳)

「進化論」を唱えた生物学の祖、チャールズ・ダーウィン氏。余談だが、彼がダーウィンフィンチ類の自然淘汰における重要性を見出したのは、ガラパゴス諸島で集めたサンプルをイギリスの鳥類学者 John Gould に見せた後だった。

 

ダーウィンフィンチ類(Google画像とはガラパゴスの島々に生息する、スズメほどの大きさの鳥類の総称です。
多種多様なくちばしが特徴的ですが、お互いに非常に近いグループだということが知られています (科レベルで同じ)。

ダーウィンフィンチ類の祖先種がこの島に飛来した後、空いていたニッチ(ある生物の生態的地位のこと。例えば昆虫食のダーウィンフィンチと種子食のダーウィンフィンチは違うニッチにいると言える。)に入り込み、その中で起こった種の分化は「食性」が大きく関係しました。

あるものは太いくちばしで硬いナッツを割り、またあるものは細いくちばしを使って虫や、サボテンの花、イグアナの血を餌としています。

エクアドルの海岸から約1000km離れているガラパゴス諸島では、もともと鳥類自体が多く生息していませんでした。
その空いていたニッチを埋めるかのように、ダーウィンフィンチの祖先種はそれぞれの食性に合わせて「適応放散(単一の祖先から様々な形状をした子孫が生まれること)」していきました。

 


ダーウィンフィンチのイメージ図。食性や地理的隔離よって種の分化が起こった

 

食べるものによって口やクチバシの形状が変化するという現象(変化するというより、その食性に特化した個体が生き残って他は淘汰される)は生物一般に知られており、ウミガメ類も例外ではありません。

 

アカウミガメは自然界ではカニや貝など硬いものを食べて生活しています。
なっちゃんはアカウミガメという種類のウミガメで、殻をかみ砕くため頭は大きく、アゴも頑丈です。


がぶっ!アカウミガメの顔はイカつい印象を受けます。

 

アオウミガメは主に海藻(キントキ・アマモ・ホンダワラなど)を噛みちぎって食べるので、アカウミガメほど頭が大きくありません。
ウミガメの中でも小顔の部類です。


アオウミガメのコータくん。なっちゃんと比べてくちばしも小ぶり。

 

タイマイ海綿(カイメン)」と呼ばれる無脊椎動物を主食としています。
海綿は岩やサンゴの間の狭いところにあるので、それらをついばんで食べれるようにクチバシは細くなっています。


タイマイはクチバシが他の2種より細く、しゅっと美形なお顔。左がアズキで右がキイロ。

 

ガラパゴスの鳥たちとウミガメの進化を同じ土俵で語るのはナンセンスな気もしますが、「口の形状が食性に影響」されるという事実はダーウィンフィンチの例と似ていますね。

いやむしろ、「食性が口の形状に影響」されて、ある食べものに特化したものたちが生き残こり、現存するウミガメ類となっていったのでしょうか?

最近の研究では、ウミガメは比較的交雑種ができやすいとされており、しかも従来推測されていたよりも雑食性が強く、上記以外にも結構なんでも食べます。

食性だけが現生ウミガメ類の種の分化に貢献したとは考えにくいですが、ウミガメ類の口の形状は進化の過程で選択された形質といえるのではないでしょうか?

 

「アオウミガメの顔ってかわいいよね~」

「アカウミガメの顔こわっ」

 

なんて感想をよく耳にしますが、それも彼らが長い年月をかけて進化してきた証拠なのですね。

それでは次回の「けろにあぶろぐ」でお会いしましょう!

 



参考文献

Darwin, C. (1996). The voyage of the beagle. Wordsworth Editions.

Finches and evolution. (2018, February 6). KaiserScience. https://kaiserscience.wordpress.com/biology-the-living-environment/evolution/finches-and-evolution/

池田博明. (2015). 高校生物の進化学(第2回)ダーウィンフィンチの自然淘汰. 遺伝 : 生物の科学, 69(2), 133–141.

Meijer, H. (2021, October 29). Origin of the species: where did Darwin’s finches come from? The Guardian. https://www.theguardian.com/science/2018/jul/30/origin-of-the-species-where-did-darwins-finches-come-from

Wikimedia Foundation. (2022, February 15). Darwin’s finches. Wikipedia. Retrieved March 14, 2022, from https://en.wikipedia.org/wiki/Darwin%27s_finches

Uppsala University. (2015, February 11). Evolution of Darwin’s finches and their beaks. ScienceDaily. Retrieved March 10, 2022 from www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150211141238.htm