前回の記事はこちら ⇒ 【けろにあぶろぐ #5】イルカの骨を眺める ① ~展示館のハシナガイルカ~


海への生活へ適応したイルカやクジラたち。彼らの祖先の登場は遡ることはだいたい5000万年前。ちょうど恐竜が絶滅し、約1500万年経った後にその頭角を現し始めました。
現在では「パキケトゥス」が直接の祖先ではないにしても、最初期の鯨類であることは長年の研究によって明らかになっています。

オオカミほどの大きさだったと言われているパキケトゥス
陸をとことこと歩いていた彼らから、大海原を駆け泳ぐまでになったわけですから、体の形態を大幅に変える必要がありました。

そして陸を起源に持つ彼らのヒレには、ちゃんと指の骨がついています。

機能は違えどイルカとヒトのヒレ・前腕の骨は同じ構造を持ち、これを「相同器官」(起源は同じだが現在は働きが異なる器官のこと)といいます。
地上を歩く「肢」から、水中で有利な「ヒレ」へと変化。ふむふむ、なるほど非常に理にかなった進化だな、とうなずけますね。

 

しかし私は最初イルカの指の骨を見た時どこか違和感を覚えました。

 

そう!「指の骨が多い」のです!

 

犬や猫も、他の哺乳類もそれぞれの指の骨の数は3本ほど。

驚くことにイルカは種類によっては中指が10本以上あるものもあり、この「指の骨がいっぱいある」状態を「指骨過剰」というそうです(樽, 2014)

海洋センターに展示されているハシナガイルカの骨格の2本目の指にも8本の骨が確認できます。

 

調べてみると、先端の骨1~2本は個体差があるとか(樽, 2014)。加えてイルカは個体によって胸椎や腰椎(胸と腰の骨)の数もまちまちで (Miyazaki, 1978; Marchesi et al., 2016)、指の骨の数が多少違っても不思議ではなさそうです。

何本も何本も指の骨があるヒトを想像すると少し気味がわるいですね。イルカは指を曲げることができないので、ぐねぐねすることはないですが、、、。

 

ですが、なぜこんなにも指の骨が多いのか?

 

Fedak and Hall (2004) によると、この「指骨過剰 = Hyperphalangy」は 二次的に水中へと適応した動物相にしか見られないそう。
現在は絶滅しましたが、「ジュラシックワールド」で有名なあの「モササウルス」や「映画ドラえもんのび太の恐竜」でおなじみ、「ピー助」が属する「プレシオサウルス」の仲間も、みんなこの「指骨過剰」が顕著です。そして全ての種で共通して、四本肢である陸生起源の祖先を持ちます。

 

「指骨過剰」の面々たち

 

しかしヒレ状の肢と指骨過剰には必ずしも絶対的な関係があるわけではないようです。
同じく海に棲息し、ヒレ状の肢を持つウミガメやアシカには、モササウルスやプレシオサウルスのような無数の微小な指の骨があるわけではありません。

実は現在のところ、指骨過剰とヒレ状の肢の因果関係は明らかになっておらず、「水中に生活の場を移した動物によく見られる」ということだけがわかっています (Fedak & Hall, 2004)。

ただ、陸生の動物相にこの特徴が見られないという事実は、海中では指の骨の多さが生存上有利だったということが推測されます。
指骨過剰は、現存する鯨類のハクジラとヒゲクジラ2つのグループで独立して獲得された形質(クジラとイルカの共通の祖先の指の骨が多かったわけではなく、2つのグループに分かれた後、指の骨が多くなった)だという事実も (Fedak & Hall, 2004)、それがいかに有利かということを物語っています。

 

 

いかがだったでしょうか?

大昔に棲息していた生物と共通点があったなんて、動物の世界はまだまだわからないことだらけですね。

では次回のブログでお会いしましょう!

 

 

参考文献

Fedak, T. J., & Hall, B. K. (2004). Perspectives on hyperphalangy: Patterns and processes. Journal of Anatomy, 204(3), 151–163. https://doi.org/10.1111/j.0021-8782.2004.00278.x

Marchesi, M. C., Pimper, L. E., Mora, M. S., & Goodall, R. N. P. (2016). The Vertebral Column of the Hourglass Dolphin (Lagenorhynchus cruciger, Quoy and Gaimard, 1824), with Notes on Its Functional Properties in Relation to Its Habitat. Aquatic Mammals, 42(3), 306–316. https://doi.org/10.1578/AM.42.3.2016.306

Miyazaki, N. (1978). FRASER’S DOLPHIN, LAGENODELPHIS HOSE! IN THE WESTERN NORTH PACIFIC. 30, 19.

樽創. (2014). イルカの前肢で見えてくるもの. 自然科学のとびら, 20(1), 7–8.