みなさまこんにちは!

小笠原海洋センタースタッフのしみずです。

前回の「ザトウクジラ調査」のお話の続きをお届けしたいと思います。

スタッフが懸命に船の上でカメラを構え、撮影した尾びれ写真は識別作業がしやすいようアップに加工し、必要があれば明るさの調整などを行います。この写真と、これまでのデータベースを見比べていきます。この識別作業をマッチングと呼んでいます。

船上で撮影した写真

アップに加工した写真

なんと、データベースに登録されているクジラは2,000頭以上。古いデータはフィルムカメラで撮影した白黒写真だったり、正面ではなく斜めから撮影した写真しか登録がなかったりと、同じ個体が登録されていたとしても膨大なデータベースの中から同じ個体を見つけるのは至難の業です。尾びれの色などからある程度絞り込んで探したとしても、1頭マッチングするには30分から1時間ほどかかります。
マッチングの結果、同じ個体がこれまでに登録されていないということが分かれば、その個体は新たにデータベースに追加されます。こうしてデータベースは充実していきます。

このマッチングによって、小笠原に来遊するクジラの頭数の推定や、成熟までの年数や出産周期などが分かってきました。
小笠原でいちばん有名なクジラ『モッチーニ』は1992年生まれで、2000年に初めて子クジラを連れている姿が目撃されています。このことからザトウクジラが成熟するまでに8年かかるのでは?と推測することもできます。(論文によると、ザトウクジラの性成熟は4歳から起こるとされているので、モッチーニの記録とも矛盾しません)

モッチーニ。右側の欠けが特徴的です。

モッチーニは人気があり尾びれの写真も多く集まるので、尾びれの欠けや模様の経年変化も観察することができます。モッチーニの変化から、他の個体の変化も推測し、マッチング作業に役立てています。

また、何度も小笠原で確認される個体が多いことから、ザトウクジラは小笠原を目指して回遊しているのではないか?と考えられるようになりました。
簡単に分かりそうなことでも、意外と分かっていないことが多くあります。毎年確認される個体もいれば、2年に1回の個体もいれば、30年ぶりに確認された個体がいる、など回遊の頻度にはまだまだ謎が残されています。(もちろん、小笠原に来るすべての個体を調査で来ているわけではないですが……)

そのため、これからも積極的な調査やデータの解析が必要です。最近の調査ではクジラがブリーチ(ジャンプ)など、アクティブな行動の際に剥がれ落ちる皮膚を採取し、DNAの研究も進めています。
まだまだ謎の多いザトウクジラの生態を解明するために、みなさまもツアーなどで写真を撮影できた際にはぜひクジラの尾びれ写真のご提供をお願いいたします!!

尾びれ写真の提供について、詳しくはこちらをご覧ください。
https://form.jotform.com/203527606448458

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献:The social and reproductive biology of Humpback Whales: an ecological perspective(PHILLIP J. CLAPHAM)