「ウミガメって何歳まで生きるんですか?」
このお仕事をしていると、1週間に1回は絶対聞かれるこの質問。
「実ははっきりとしてことはわかっていなくて、人間と同じくらいくらいですかねぇ、、、。万年とまではいかないですねぇ(笑)」
いつもこんな調子で答えるが、、、
ウミガメを仕事にする者としてこんな曖昧な答え方でいいのか!
もう少し納得のいくような返答はできんのか!
そう思いながら、このブログを執筆しております。
実際のところウミガメは何歳くらいまで生きるのか?私なりに調べてみたことをゆるっと書き記していくので、みなさま、どうかお付き合いください。
※ このブログは小笠原海洋センターの一職員が趣味の延長線上で執筆しております。文献などを参考にし書いてはいますが、絶対正しいとは限らないのでご了承ください。
【そもそもウミガメは何歳で “オトナ” になるのか?】
海洋センターで飼育されているウミガメは全部で3種類。
アオウミガメのコータくん(左上) 2002年生まれで今年20歳。
アカウミガメのなっちゃん(右上) 1989年生まれの33歳。海洋センターで一番年上のウミガメです。
タイマイのアズキ(左下)とキイロ(右下) どちらも1999年生まれで今年23歳。
20歳や30歳というと、人間ではバリバリ働き盛りの年齢。生活も安定し、個人差はあれど家庭を持ち子孫を残していくのも20~30代なのではないでしょうか?
しかし、ウミガメ界で彼らはまだまだ若い方。「コドモ」ではないにしろ、「青年」くらいの年齢。
私が調べた範囲でウミガメの成熟年齢(オトナになり子孫を残すこと可能になる年齢)を下に記します。
※ 以下「オトナ」を性成熟に達したカメとします。
種類 | 成熟年齢 |
アオウミガメ |
北西大西洋:18~50年 |
アカウミガメ |
北西大西洋:10~39年 |
タイマイ | ハワイ:14~20年 |
Wyneken et al. (2013)より改変
アオウミガメはオトナになるまで、数十年を要します。20年以下でも成熟したという報告もありますが、50年という長い月日がかかるのはこの種くらいでしょう。アカウミガメはアオウミガメよりも成熟が早そうです。50年はかからないにしても、30年くらいで成熟するものが一般的。タイマイの報告は1例しかなかったのですが、それでも20年以内と他の2種よりは早そうです。
こうして見るとアオウミガメ科のウミガメは、体が大きいほど性成熟が遅いような傾向が見られます。
■ アオウミガメ(甲長:80~110cm)> アカウミガメ(甲長:70~100cm)> タイマイ(甲長:60~80cm)
■ アオウミガメ(15~50年)> アカウミガメ(10~39年)> タイマイ(14~20年)
アオウミガメ科と書いたのは、オサガメの性成熟が異様に早いから。表には載せませんでしたが、性成熟達するまでだいたい15年くらいで、遅くても20年前後でオトナになるという報告があります (Wyneken et al., 2013)。
この表を眺めてて思ったことは、アオウミガメの性成熟って他と比べて遅いんだな = オトナになるまでに時間がかかるということです。亜生体のアオウミガメは主に海藻や海草を食べているので (Guebert-Bartholo et al., 2011)、甲殻類を主食とするアカウミガメより、食べ物に栄養がないからでしょうか?
いずれにせよ、小笠原産まれで現在20歳のコータくんはあと十年以上しないと性成熟に達しないようです。
反対に2022年現在、33歳のなっちゃんは年齢的に見れば成熟年齢に達していると言えそうです。
とはいうものの、動物の成長度合いは個体差が大きく、餌の量や質、取り巻く環境、その他様々な要因が絡んできます。国が違えばそこにある食べ物も違ってきたりしますし、よく食べる個体がいればそうでない個体もいるわけです。
また、一般に飼育環境に置かれている動物は飽食気味になりやすく、成長も早いです。人間が餌をたくさんあげますからね。飼育下のアカウミガメやアオウミガメがものの6~7年で成熟した報告もあり(亀崎, 2012)、海洋センターにいるカメたちはとっくの昔に、みんなオトナになっているのかもしれません。
さて、種間の差はあれどウミガメはオトナになるまで相当時間がかかることがわかったかと思います。
「オトナになるのに数十年かかる」という、字面だけで長生きしそうなツワモノ感、、、。
そんな彼らの寿命は果たしてどのくらいなのでしょうか?
次回もお楽しみに!
参考文献
Wyneken, J., Lohmann, K. J., & Musick, J. A. (2013). The Biology of Sea Turtles. CRC.
Guebert-Bartholo, F., Barletta, M., Costa, M., & Monteiro-Filho, E. (2011). Using gut contents to assess foraging patterns of juvenile green turtles Chelonia mydas in the Paranaguá Estuary, Brazil. Endangered Species Research, 13(2), 131–143. https://doi.org/10.3354/esr00320
亀崎直樹. (2012). ウミガメの自然誌: 産卵と回遊の生物学. 東京大学出版会.