忙しさにかまけて気を抜いていたら、ふざけた投稿(所長の)が続いたので、
この辺で一旦、真面目路線に戻します。

今回の不定期連載『カメトピ』は、10/5にFacebookにアップした
『たまちゃん日記 ~再会~』でも触れた、『とっておきの個体識別方法』がテーマです。

それは…

『Photo ID(identification)』である。

ウミガメの放流体験を経験済みの方ならご存知の通り、放流時には標識付けを行ない、
甲羅・頭頂部・側頭部の写真を必ず撮って記録している。

標識が脱落したとしても、甲羅や頭部のわずかな模様の違いで個体識別が可能なのだ。

例えば、K園さん(島民)が釣浜でスノーケル中にウミガメを目撃して撮ってくれた写真。

このウミガメが小笠原海洋センター出身であれば、放流時の写真と照らし合わせて、
標識がなくても、左側頭部の模様から年齢や母ガメの情報なども判明するのだ。
海洋センター出身でなかったとしても、今後このカメが再発見されることがあれば、
野生下での成長を追うことができ、多くのウミガメのデータが溜まれば、
年齢別の生存率など、野生下での生態をさらに明らかにすることも可能なのである。

だが実は、更なるとっておきの識別方法があるのだ。
それは『LivingTag(生体標識)』である。

簡単に説明すると、背甲(黒)と腹甲(白)の切片を切り取り、背と腹の切片を入れ替える。
すると黒い背中に、白く四角い部分ができる。
その位置を年度ごとに変えていくことで、
生まれ年が分かるという仕組みだ。

そして、LivingTagを施している研究機関などは、現在日本では小笠原海洋センターのみなので、
日本近海のアオウミガメでLivingTagがあれば、それだけで小笠原生れであることが分かるのである。

実際に沖永良部のダイバーさんがお寄せくださった写真がこちら。

この写真1枚から、下記の4点ものことが分かった。
①2008年生まれの当時3歳のカメであること。
②野生下でも飼育下と遜色ないほど、かなり大きく育つこと。
③3歳で外洋性から沿岸性に切り替わっていること。
④小笠原生まれの亜成体カメは鹿児島近海まで回遊し、摂餌海域として利用していること。

ただLivingTagだけでは、生まれ年は分かるが個体識別まではできないのが唯一の欠点。
そこでPhotoIDと合わせて利用することで、小笠原のウミガメの生態を謎解くことができるのである。

成体になってからも基本的にLivingTagは半永久的に定着し、頭部の模様も変化しない。
よく聞かれる質問のひとつ『ウミガメの寿命』についても今はハッキリと答えることができないが、
LivingTagとPhotoIDを経年的に続けていくことで、その質問にもバシッと答えられる日が来るはずだ。

ケイマン諸島ではヘッドスターティング(以下HS)で放流したウミガメが、
15~19年という速さで産卵しに戻ってきている記録がある。

HSで放流されたウミガメが野性下の環境に適応でき、成熟できる。
そして、生まれた島へ戻り繁殖していることが証明されている。
これもLivingTagを含む標識放流から分かった事実である。

小笠原のウミガメは現在、順調に増えているものの、
戦前の乱獲が始まる時代に比べると、まだまだ資源量は少ない。
LivingTagを施術することで HSが資源回復に有効であることが証明できれば、
小笠原だけでなく、世界中のウミガメを救えるかもしれない。

ケイマンのウミガメについて、詳しくは論文をご覧あれ。
BellCDL_2005_Oryx (1)

そして、小笠原出身のウミガは日本全国、沖縄から関東地域までを
摂餌海域として利用していることが判明している。
こちららも論文をご覧あれ。
DNA-Green-Japan_MarineBiology

日本近海でウミガメを見たことがあるそこのあなた。
今日からあなたもウミガメの写真を小笠原海洋センターに送ることで、
ウミガメ研究の一役どころか、貴重なデータ提供者になれるのです。

というか、小笠原に拠点を置く我々では直接追うことができないので、
小笠原のウミガメの『その後』を知るためには、全国のみなさまからの情報が必須です。

ダイバーさんをはじめ、マリンスポーツを楽しみ、海を愛するみなさま。
小笠原以外でもウミガメを目撃したら、是非我々へ情報をお寄せください。
誰も知り得なかった、新たな生態発見に繋がる可能性が大いにあります。

アオウミガメのPhotoIDは、来年度から軌道に乗る予定なので、ご期待あれ!